がんと闘う犬猫の「食事ケア」〜栄養の選び方から食べなくなったときの向き合い方〜

大切な愛犬や愛猫が「がん(腫瘍)」と診断されたとき、 飼い主様の心の動揺は計り知れないものだと思います。
「これから、どんな生活になるのだろう」 「お家で、私にできることは何かないだろうか」
そんな風に、我が子を想う中で 多くの方が最初に行き着くのが「食事のケア」です。
今回は、がんと闘うどうぶつたちの体の中で起きている変化と、 お家で試せる食事の工夫、 そして、病気が進み「食べられなくなったとき」の心の向き合い方について、 お話しさせていただきます。
1. なぜ、しっかり食べているのに痩せてしまうの?
「ごはんは残さず食べているのに、どんどん体重が落ちていく……」 がんと闘う中で、そんな風に不安に思われたことはありませんか?
実は、がんと闘うどうぶつの体の中では、 健康な時とは違う変化が起きています。
こうした現象は、飼い主様のケア不足では決してありません。
がん細胞は、私たちが食べた栄養の中から 「糖質(炭水化物)」を大好物として横取りし、どんどん増殖していきます。
さらに厄介なことに、がん細胞は糖質を消費するときに「乳酸」という物質を作ります。 どうぶつの体は、この乳酸を元の状態に戻そうとするときに、 さらに大量のエネルギーを激しく消耗してしまうのです。
つまり、「食べているのに、それ以上のスピードでエネルギーが奪われてしまう」状態(悪液質といいます)が起きているのです。
だからこそ、がんと闘う体の食事は、量だけでなく「栄養のバランス」がとても大切になります。
2. がんに負けない体をつくる「食事の3原則」
一般的に、腫瘍を抱えるどうぶつの食事では、以下のバランスが推奨されています。
- 低炭水化物(低糖質): がん細胞の大好物である糖質をできるだけ抑える
- 高タンパク: 奪われていく筋肉量を維持する
- 高脂肪: 効率よく高いエネルギーを補給する
※ただし、腎臓や肝臓、膵臓などに別の病気がある場合は、このバランスが体に負担をかけてしまうこともあります。フードを変更する際は、必ず事前にスタッフへご相談くださいね。
3. 食欲が落ちてきたときに、お家で試せる4つのSTEP
病気が進んだり、治療の副作用などで、だんだん食欲が落ちてくることがあります。 そんなときは、以下の方法をお家で試してみてください。
Step 1:日常のちょっとした工夫
- 38度ほど(人肌)に温めて香りを立たせる
- 手のひらからあげてみる
- 食器の台を高くして、首の負担を減らしてあげる
Step 2:お薬(食欲増進剤)を利用してみる
工夫しても食べない場合は、病院で処方できる食欲増進剤(ミルタザピン、カプロモレリン、ステロイドなど)を使うことで、食欲を引き出せる場合があります。
Step 3:給餌補助(シリンジ・ペースト)
ドロドロ状にした療法食や高栄養の流動食などをシリンジで少量ずつお口に入れてあげる方法です。
Step 4:栄養チューブの検討
シリンジでの無理な給餌を嫌がる子の場合、無理に押し込むよりも「経鼻チューブ」や「食道チューブ」を設置した方が、お互いのストレスが大幅に減り、穏やかに過ごせるケースもあります。チューブは延命のためだけではなく、「嫌な思いをさせずに栄養を届ける優しい医療」という側面もあります。
大切なポイント:「大好きなもの」を完全禁止にしない
「がんに悪いから」と、これまで大好きだったおやつや果物、乳製品をすべて我慢させてしまう必要はありません。 一番大切なのは、ペット自身が「美味しい!」「食べたい!」と感じる喜びです。主食をしっかり抑えつつ、大好きなものはトッピングとして少しだけあげて、食べる楽しみを残してあげてくださいね。

4. だんだん「食べなくなったとき」の、ペットとの大切な心の向き合い方
工夫やお薬を使っても、体調の波によってはどうしてもご飯を受け付けなくなる時期があります。
そんな時、我が子を前に「私がもっと上手にあげていれば…」と自分を責めないでください。
どうぶつが食べなくなるのは、身体が負担を減らし、一番楽な状態で過ごすために「休息モード」に入っているからです。
食べ物を消化・吸収するのには大きなエネルギーを使います。「今は静かに身体を休めたい」と感じているとき、無理に食べさせることは、かえって身体の負担になってしまうことがあります。
治療期の「食べるサポート」が生きる力になるのと同様に、「無理をさせず、静かにお休みさせてあげる時間を作る」こともまた、我が子の体を想う大切な愛情のかたちです。
5. 今、ペットに愛を伝えるためにできること
ご飯の量が減っても、届けることができるケアはたくさんあります。
- お口の保湿: 湿らせたガーゼや綿棒でお口の中をやさしく潤す(ドライマウスの不快感を和らげます)
- やさしい声掛けやボディタッチ: いつもの呼び名で声をかけながら、お気に入りの場所で撫でたりブラッシングをする(声と匂い、やわらかな触れ合いが一番の安心感になります)
大切なのは「食べてくれたかどうか」に一喜一憂することではなく、今この瞬間の「心地よさやペットの安全基地」を一緒に守ってあげることです。
「食べてくれない」と悲しむのではなく、「今日も隣でリラックスしてくれているね」と、一緒にいられるぬくもりを大切にしてくださいね。

不安なことや判断に迷うことがあれば、いつでも当院スタッフにご相談ください。ご家族とペットが一番穏やかに過ごせる方法を、一緒に考え提案いたします。


