電気化学療法 〜がん治療における新たな選択肢〜
新習志野どうぶつ病院では、従来の方法では治療が困難な腫瘍に対して【電気化学療法】を実施しています。
手術では取り切れないと診断された、顎骨切除(下顎切除/上顎切除)や断脚術、眼球摘出しか有効な治療がないという診断を受けた場合にも諦めずにご相談いただければと思います。
今回はこの【電気化学療法】について、どんな治療なのか?どんな腫瘍に効果があるのか?を解説します!
① 電気化学療法とは
電気化学療法(Electrochemotherapy:ECT)は、腫瘍組織に特殊な電極をあて、電気パルスを与えることで抗がん剤の取り込みを促進する局所治療です。腫瘍内での薬剤効果を100倍から最大5,000倍に高めることができ、少量の薬剤で強力な抗腫瘍効果が期待できます。
② 適応となる腫瘍
2025年現在、以下の腫瘍を中心にECTが実施されています。
- 犬:
肥満細胞腫・扁平上皮癌・肛門嚢腺癌・軟部組織肉腫・悪性黒色腫(メラノーマ)・形質細胞腫・棘細胞性エナメル上皮腫など
- 猫:
肥満細胞腫・皮膚扁平上皮癌 など
特に、顔や口腔、鼻鏡、肛門周囲など手術が難しい部位、高齢であったり持病の影響で長時間の手術や麻酔が難しい場合、手術後の再発リスクが高いケースなども対象になります。
特に手術後の局所再発予防としては、ほとんどすべての腫瘍に効果があるのではないかと考えられています。
③ 治療の流れ
当院でのECTは以下のような流れで実施します。
1.事前に麻酔前検査を行い全身麻酔のリスクを評価します。
2.全身麻酔を施し抗がん剤を静脈内、あるいは腫瘍内に投与します。
3.特殊な機器を用いて腫瘍組織に電気パルスを流します。処置時間(≒麻酔時間)はおおよそ20分程度です。
施術後は1週間後を目安に受診をお願いしています。その後定期的に経過観察を行い、必要に応じて再施術を行います。
手術後の再発防止目的では2回、ECT単独での治療の場合は1〜4回程度実施することが多いです(おおよそ1ヶ月毎の施術)。
④ 効果と実例
ECTは1回の施術でも腫瘍の縮小効果を期待できるのが大きなメリットです。
猫の皮膚扁平上皮癌には電気化学療法が非常によく効くと考えられており、文献にもよりますが奏効率80〜100%(うち完全奏効が40〜82%、部分奏効が0〜62%)と報告されています。
(Tozon N,2014 Spugnini EP, 2009 Dos Anjos DS, 2020 Simcic P, 2021 Tellado M, 2022)


画像:Veterinary Guidelines for Electrochemotherapy of Superficial Tumors. Tellado et al. 2022 より引用
犬の口腔内メラノーマも治療に苦慮することの多い腫瘍です。
電気化学療法単独による治療では、直径4cm未満の口腔内メラノーマで奏効率70%(完全寛解21%、部分寛解49%)と報告されており、直径5cm以上のメラノーマでも奏効率100%(完全寛解寛解54%、部分寛解46%)というデータも出ています。
(Moretti G, 2022)


画像:Veterinary Guidelines for Electrochemotherapy of Superficial Tumors. Tellado et al. 2022 より引用
⑤ 副作用
施術部位に赤み・浮腫・潰瘍・痛みなどの局所反応が起こる場合がありますが、通常数週間で瘢痕化し軽快するとされています。
まれに施術部位の壊死が起こることがあり、軟膏のおくすりや包帯で保護することがあります。
また、抗がん剤の副作用については、使用薬剤が少量であるため、全身的な副作用が起こることは極めて稀です。
⑥ メリットとデメリット
メリット
- 高い局所抗腫瘍効果が少量の抗がん剤で、短期間で得られる可能性がある。
- 頻繁な通院が不要なことが多く、放射線治療に比べ費用や通院負担が少ない。
- 繰り返し施術できるため、局所再発にも柔軟に対応できる。
- 手術が難しい部位、年齢や持病により長時間の麻酔や手術がリスキーな場合にも有用。
- 腫瘍の形成部位によっては、断脚術や眼球摘出術、顎骨切除術などの大掛かりな手術を回避できる可能性がある。
デメリット
- 施術に短時間の全身麻酔が必要である。
- 施術できる部位が、体表からアクセスできる部位(皮膚や口腔内など)に限られる。
- 施術部位の発赤、浮腫などの炎症反応や壊死が起きることがある。
- 新しい治療法であるため、従来の治療(手術/抗がん剤/放射線治療)に比べて情報が少ない。
- 実施できる施設が限られる
⑦まとめ
新習志野どうぶつ病院で導入しているECTは:
- 電気パルスと抗がん剤の併用により、
- 少量の薬剤でも強力な治療効果を発揮し、
- 顔や口腔などの手術困難部位で有用であり、
- 副作用は従来の治療に比較して軽く、再施術も可能であるなど多くの利点を備えています。
いかがだったでしょうか?
電気化学療法が日本で取り入れられ始めたのはごく最近であり、インターネット等で調べてもまだ情報が出てきづらいかもしれませんが、今後外科治療/ 化学療法 / 放射線治療に続く腫瘍治療の4本目の柱になる可能性があると考えています。
電気化学療法についてご興味のある方は、【新習志野どうぶつ病院(TEL)】またはグループ病院の【奏の杜どうぶつ病院(TEL)】までお電話ください。
また、奏の杜どうぶつ病院のBlogでは電気化学療法について更に詳しく説明しています。ぜひご覧になってください。



